jin-jour(ジンジュール) |人材育成、リーダーシップ、モチベーション、メンタルヘルス対策など 人事の視点から、働く人と会社の関係を元気にする情報を発信

ログイン
MENU

メニュー

×

ドキュメント 人事の現場【溝上憲文】 [2011.06.07]

<ドキュメント 人事の現場>大震災 その時、人事部はどう動いたか(4)-金融業 総務課長のケース


短期集中連載 大震災 その時、人事部はどう動いたか(4)
溝上憲文 みぞうえのりふみ
ジャーナリスト

東日本大震災の際に、総務課長の寺岡さんは、社員の安否確認、震災対策本部を立ち上げ、帰宅困難者の宿泊対応に追われます。そして、事業継続のために、これまでにルール化されていない新たな問題にも直面します。そこで得た教訓とは…

■緊急用の勤怠ルールを新たに練り直し、自宅待機者は勤務扱いに

「思えば地震当日のほうがよほど楽でした。13日の日曜日の夜に計画停電が発表され、翌14日の月曜日の朝は交通機関が乱れて、その日に出勤できた人は3割。定時に出社したのは1割でした」

寺岡は早めに自宅を出たので定時に間に合った。しかし、その日は業務にならなかった。翌日以降の業務継続をどうするのか、震災対策本部で協議した。その結果、業務を継続することに決定。寺岡はそのための対策を講じることを命じられた。

「業務に必要な最低限の人数は250人です。まず、派遣スタッフを含めた全従業員の交通経路を洗い出し、通勤ができない人、自宅からの通勤が可能な人を調べました。すると通勤可能な人が200人いることがわかりました。それでも業務に必要な要員が50人足りません。そのため、ホテルに60室の部屋を1週間分予約し、ホテルから通勤させることにしました」

問題になったのは通勤できない人の処遇である。交通機関が継続して麻痺した場合のルールは想定していなかった。緊急用の勤怠ルールを新たに練り直し、自宅待機者は勤務扱いにすることにした。

「交通機関の麻痺を理由に会社に来られない場合は勤務扱いとしました。しかし、その後、交通事情もよくなり、3月16日の水曜日には全員が通勤してきました」

ただし、勤務扱いは正規社員のみである。雇用主の異なる派遣社員については、ノーワークノーペイの原則により通勤不可能な人は対価を支払わないことにした。だが、同社の考え方に理解を示す派遣会社ばかりではなかった。同社は約30社の派遣会社と契約している。その中の1社は、14日にこう通告してきた。

「原発の放射能漏れがどうなるのかわからない。即刻、うちの派遣スタッフに自宅待機を命じてほしい。補償はこちらで行う」

業務継続を決定したばかりであり、派遣スタッフに抜けられるのは困る。寺岡は必死にその業者を説得し、なんとか了承してもらった。 また、数社の派遣会社は、自宅待機の派遣スタッフについても勤務扱いとして対価を支払うように求めてきた。自宅待機が業務指示なのかどうかを巡って、業者とはかなり揉めたという。

「もちろん通勤できる人には支払いますが、通勤不可能な人には払わないという整理をしていました。しかし、派遣元には業務指示であり、払うべきだと主張するところもありました。先方に直接会って<交通機関が全部止まっているわけではなく、通勤できる人と通勤できない人がいます。通勤できない人には一人ひとり個別に出勤は無理だということを確認しており、問題はない>と説明しました。最終的に納得してもらいました」

一般的に派遣スタッフの通勤費は労働対価に含まれている。途中駅までタクシーを使えば通える人もいるだろうが、その費用は支給されない。派遣元も強く主張できない事情もあったのかもしれない。

■4月に入り、事業継続するためのあらゆる問題点を洗い出す作業を実施

寺岡を悩ましたもう一つの問題は東北地区の従業員の扱いである。東北営業所には数十人の従業員がいたが、機能は完全に麻痺し、自宅待機にしていた。電話が通じず、復旧し、業務ができるまでに時間がかかる。従業員の中には地元出身者以外に転勤者も含まれていた。

「転勤者を現地にそのまま置いておくかどうか悩みました。最終的には希望者のみ関西本社に異動することにし、バスで迎えに行きました」

交通機能も徐々に回復し、従業員も通勤できるようになった17日(木)、突然、業務の支障を来すおそれのある事態に直面した。海江田万里経済産業大臣が午後、電力需要が供給量に迫り、大規模停電が起きるおそれがあると発表したのである。

「鉄道が運行停止になる恐れがあり、その日は午後4時には社員を帰宅させました。しかし、問題は心臓部のコンピュータシステムの停止です。東京にはシステム対応部隊はいないので、本社に連絡を取り、急遽、新幹線で東京に来てもらいました。私も含めて全員がホテルで待機し、いざという時に備えました」

4月に入り、今回の大震災の教訓を踏まえ、事業継続するためのあらゆる問題点を洗い出す作業を実施した。解決すべき課題は多かった。例えば、携帯電話がメールも含めて完全に使えなくなった場合にどうするのか、電気、水道、ガスなどのライフラインが止まった場合にどうするのか。

特に想定していなかったのは、東京の金町浄水場の放射線量が基準値を超えた時である。

「乳児の摂取を避けるというものでしたが、それを会社としてどのように判断するのか、悩みました。その時は乳児だけであり、大人の摂取は問題ないとの見解に基づいて勤務は可能と判断しました。結果的に2日で終息しましたが、それが続いた場合はどうなるのか、あるいは基準値を超えて会社の水が飲めない状態が続いた場合、勤務できないという事態も想定する必要があります。当然、店頭の飲料水はすぐに消えます。内部の議論では関西からトラックで大量の水を運んではどうかという話も出ました」

こうした問題は、依然、検討課題になっている。そして最も重たい問題は、原発事故の影響や大規模停電により、事業継続が不可能になった場合の対応である。

「すでに外資系企業の多くが東京から逃げて関西地区に拠点を移しています。特にうちの場合は、ビジネスの根幹であるコンピュータシステムが計画停電や大規模停電で稼働しなくなることが一番怖い。そのため、現在入居しているビルから無停電ビルへの移動も検討しています。同時に、東京の機能を関西の本社に移すことも視野に入っています。ただし、人事的には雇用の問題が発生します。全員が転勤可能ならいいのですが、地域採用の従業員や派遣スタッフもいますから…」

現在、震災の影響はある程度終息している。しかし、今後の起こり得る非常事態を前提に、事業継続を考えた時、寺岡にとっては、今回の震災はあまりにも多くの課題を残すことになった。


労務管理、人事評価、ハラスメント対応など充実のコース!

労務行政eラーニング 詳しくはこちら

禁無断転載
▲ ページの先頭に戻る

ログイン

×

人事・労務に役立つ商品・サービス検索

  • カテゴリとジャンルから検索

検索

注目商品ランキング 新着商品