jin-jour(ジンジュール) |人材育成、リーダーシップ、モチベーション、メンタルヘルス対策など 人事の視点から、働く人と会社の関係を元気にする情報を発信

ログイン
MENU

メニュー

×

ドキュメント 人事の現場【溝上憲文】 [2011.05.24]

<ドキュメント 人事の現場>大震災 その時、人事部はどう動いたか(2)


短期集中連載 大震災 その時、人事部はどう動いたか(2)
溝上憲文 みぞうえのりふみ(ジャーナリスト)

東日本大震災の際に企業の人事部は、刻々と変わりゆく状況に、どう対応したのか? 担当者の発言をベースに、ジンジュールでもコラムを連載している溝上憲文氏にレポートしてもらった。第2回となる今回は、派遣社員への対応や外国人労働者への特別措置、そして採用活動と入社式開催など、震災が引き起こしたさまざまな余波を追った。

■派遣社員の対応、外国人労働者への特別措置で課題が浮き彫りに

野崎も危機対策本部に出席するために毎日出勤した。自宅待機の社員については、100%の休業補償をすることにした。だが、派遣社員については支払わないことにした。この点について野崎はこう説明する。

「なぜならノーワークノーペイの原則や雇用者は派遣元であること、もう一つは、法的には今回の事態は会社の都合ではなく、避けられない不可抗力であることが不支給の理由です。弁護士と相談した結果、そういう判断を下しました」

しかし、このことに派遣元は納得せず、不可抗力か否かをめぐって後々まで揉めることになる。

実は自宅待機とは別に特例を設けた。大震災と原発事故の情報は日本のみならず世界中を駆けめぐった。在日外国人の家族や知人から一刻も早く帰国を促す連絡が相次いだ。同社には100人近くの外国人社員がいるが、外国人に限定し、14日から5日間の特別休暇を付与することにした。

「海外の家族からすぐに帰って来いと言われ、地震の翌日には帰国する外国人社員が現れ始めるという事態が起こりました。当社では、近年のグローバル採用で若い外国人社員が多く、一時的に帰国したいという要望が多く寄せられたことを踏まえた異例の措置です。ただし渡航費用は支給しません。中国などのアジア諸国をはじめアメリカ、ロシアなどに帰国する社員もいました。22日から通常勤務となりますが、もう少し家族と一緒にいたいという場合、22日以降は休職扱いとしました」

驚くことに外国人社員の3分の2が帰国を含めて東京から離れたという。22日火曜日にはそのうち8割の社員が出勤し、残りも順次戻ってきた。だが、複数の社員が退職する事態になった。外国人にとっては異国での就職という仕方のない事情もあるが、野崎は複雑な感慨にとらわれた。

「日本人でもアメリカの外資系企業に就職し、例えばロスで大地震が起きれば、辞めて帰国するでしょうし、それは同じかもしれません。でも結局、外国人は“同じ船”には乗っていないんだなと思い知らされました。グローバル採用を積極的にやることが本当にいいのか、これからいろいろ議論は出てくると思います」

■周囲に配慮して採用活動の一時停止を決定、入社式は開催

危機対策本部の会合は、15~18日の自宅待機期間や19~21日の連休の間も連日開催された。

3月15日火曜日は、当面の人事部案件を決定し、野崎はその処理に追われた。その案件に中の一つに採用活動の一時停止があった。

「15日の段階でグループ企業を含めて新卒・中途の採用活動の一時ストップを決めました。実は新卒の一次面接はすでにスタートしていたのですが、交通事情で面接に来られない人にとっては不公平になること、もう一つは震災で大変な時に採用活動をしているというネットの書き込みもあって、状況が落ち着くまでしばらく様子を見ることにしました」

22日月曜日に活動再開を検討した。しかし、震災や原発被害の見通しも立たないことから3月中は中止し、4月以降に改めて再開の時期を調整することになった。

「再開するにしても改めて就活セミナーの開催場所を確保する必要があります。しかも、人事部が依頼している現場の面接担当の管理職も地震の対応で忙しいという事情もあります。当面は現場の営業活動を優先し、ある程度、落ち着いてから活動を再開することにしたのです」

会議では4月1日の入社式を予定どおり開催することに参加者から疑問が出された。多数の死者と行方不明者の捜索が続く被災地のことを考えれば“祝い事”は不謹慎という自粛論である。矢面に立たされた野崎は実施すべきと主張した。

「各地で卒業式が相次いで見送られているが、卒業式もなければ入社式もないというのは新社会人があまりにもかわいそうだ。華美にしなければいいと訴えたのです。それはそうだということで了解してもらいました。また、入社式後の宿泊研修も実施しました。当初、担当者の部下が<宿泊先の神奈川県のホテルが計画停電で使用できなくなるかもしれません>と言ってきました。しかし、私は<先のリスクばかり考えていてもしょうがない。停電になったら中止してもいいからやろう>と、実施することを指示しました」

念のため代替施設の確保を指示したが、結果的には停電もなく、無事に一連の行事を終えることができた。

■銀行のシステム障害で給与支払いに問題が…

3月15日には、野崎を悩ますもう一つの突発的“事件”が発生した。みずほ銀行のシステム故障による振込口座とATMの停止である。すでに給与振込の処理は終わっており、長期化すれば、社員が給与を受け取れないおそれがあった。危機対策本部でもその対応を指摘された。

「給与の振込先銀行はみずほ銀行ではなかったのですが、みずほ銀行を給与口座に指定している社員は引き出せません。そのため人事部としては、希望する社員に対して当面のやり繰りに必要な資金として10万円を貸し出し、翌月の給与で天引きすることに決め、対策本部で了承されました」

しかし、25日までにシステム障害は解消され、口座の引き出しが可能になり、難を逃れた。

■非常時体制下での業務遂行。通常に戻るにはなお時間がかかる

17日木曜日の午後、海江田万里経済産業相が<電力需要が供給量に迫り、大規模停電が起きるおそれがある>という談話を発表。輪番で出勤していた社員に早期退社を促すという出来事もあった。

野崎は、春分の日を含む19~21日の連休中も出勤し、危機対策本部の会合に参加した。すでに18日金曜日の段階で、22日火曜日から通常営業に移行することを決めた。だが、原発事故の被害は予断を許さない状況にあり、会社は常に非常時体制下にある。

震災に伴い、想定していなかったさまざまな課題に対応した半月だった。

「安心して通常の仕事に戻るまでには時間がかかりそうです。それに震災で浮き彫りになった多くの課題を検証し、BCPにどう活かしていくか。詰めなければならない問題も残っています」

野崎は、当時のことを述懐しつつ、いまも気を緩めることができない日々を送っている。


労務管理、人事評価、ハラスメント対応など充実のコース!

労務行政eラーニング 詳しくはこちら

禁無断転載
▲ ページの先頭に戻る

ログイン

×

人事・労務に役立つ商品・サービス検索

  • カテゴリとジャンルから検索

検索

注目商品ランキング 新着商品