変化創出系ミドル「課長 夏川あい」の育て方 [2017.06.23]

第1回 序章:人材育成への問題提起


PMIコンサルティング 株式会社
ファウンダー 有田 曉生

はじめに

変化の激しい経営環境の下で、事業の成長と革新を支える「変化創出力」を備えたミドル人材をいかに計画的・戦略的に育成していくか――という視点から取り組みの在り方を考える、全7回の連載解説『変化創出系ミドル「課長 夏川あい」の育て方』をスタートします。今回は序章として、育成モデルのデザインを総論的に示し、次回からは多様の職務経験を重ねて成長していく主人公・夏川あいのストーリーを追って、成長ステージに合わせた育成・経験付与の設計を考えていきます(本連載は隔週掲載の予定です)。

■これからのミドルに求められる「変化創出力」

経営環境は非連続的で加速度的な変化を基調とし、変化の内容も多様化しながら不確実性を高めている。そのような経営環境の下では、過去の経験を頼りにする「職務熟練力」はもとより、市場や競合の目まぐるしい動きに追いつこうとする「変化対応力」を高めても対処しきれない。今日必要なのは、自らが積極的に働き掛けて経営環境そのものを変えていくことができる「変化創出力」だ。特に重要なのは、経営と現場の要を担うミドル層であり、変化創出力を備えたミドルの育成は急務だ[図表1]

[図表1]今日求められている「変化創出力」

■人材育成における「職務経験デザイン」の重要性

優れた経営者やリーダーたちに、人材を育成する上で最も大切なことは何かと問うと、必ずといっていいほど「職務経験」という答えが返ってくる。また、いつごろが重要かと問うと、判で押したように「できるだけ若いうちから」という答えが返ってくる。若年層の段階から、職務経験をどのようにデザインしていくかは、人材育成において重要な課題だ。

一方、彼らや彼女らは、職務経験が"諸刃の剣"であることにも気づいている。同じような職務経験をただ漫然と繰り返していれば、変化を創出するどころか、変化に追いつく能力も、変化に気づく能力も徐々に退化していく。

では、経営環境が激変しようとも、それを上回る速さで、経営環境そのものを変えていく能力とは、どのような職務経験を通して育まれるのだろうか。

■職務経験デザインの下絵となる「成長法則と育成法則」

これまで企業の人材育成支援のために数多く行ってきた人材アセスメントの結果から、変化創出力の高い人材の成長プロセスにおける職務経験には一定の法則性が見て取れる。例えば、新入社員のころは、本物のプロの世界を見せてくれる上位者から直接薫陶を受けて、目線を高めるような職務経験が必要であり、25歳から28歳くらいの間には、まったく新しい分野に身を投じ、今までとは異なる視点から仕事を見直すことで、多面的なものの見方が身に付くような職務経験が必要になる。続いて、29歳から34歳くらいの間には、生涯の武器となるような専門性を磨き抜き、その専門性の応用力を高めるような職務経験が必要である。そして、35歳から37歳くらいの間には、第二・第三の専門能力を身に付けて、多角的な思考力を獲得できるような職務経験が必要となる。

このような「成長法則」をベースに、各社なりの政策や事情を踏まえ、着実な成長につながる職務経験デザインを描くための下絵として体系化したものが[図表2-1]の"人材育成のマクロモデル"である。

[図表2-1]人材育成のマクロモデル

[図表2-2]マクロモデルの育成ステージ別に見た職務経験デザインのガイドライン

また、"人材育成のマクロモデル"における全ての育成ステージに共通した「育成法則」として"人材育成のミクロモデル"を体系化し、それぞれの段階で講じるべき階層別育成施策の設計の下絵としている[図表3-1]。ミクロモデルでは、各ステージを三つの成長ステップに分け、熟練度を高めるジェネラリティ(G)・ストレッチと、汎用能力を磨くスペシャリティ(S)・ストレッチを交互に引き伸ばすことで、効果的な育成を実現する。育成施策を設計する際には、各育成施策が連動していることが重要だ。特に、各ステージに必要な職務経験が現場に存在するとは限らず、各ステージの学びを習熟させ、次なるステージの準備を促す職務経験を意図的に与える必要がある。私たちは必要なタイミングに、必要な職務経験を与える「Management By Experience」(MBE)というプログラムを中核に、人材育成施策を構成している[図表3-2]

[図表3-1]人材育成のミクロモデル

[図表3-2]人材育成施策のフレームワーク

■企業の現場が抱える「塩漬け問題」

若年層からの職務経験のデザインは、変化創出力の高いミドルを育成する上で重要な意味を持つ。しかも、長期的な取り組みであるため、その機会を逸すれば企業の未来に大きな影響を及ぼす可能性もある。にもかかわらず、社員の職務経験を成り行きに任せている企業はあまりにも多い。職務経験のデザインについて真剣に取り組んでいる企業でも、経営幹部になってから、ようやく検討を始めるケースがほとんどだ。残念ながら、若年層から計画的に職務経験をデザインしながら人材を育てている企業はまれだろう。

原因の一つに、目の前の業務をこなすことだけにとらわれて、将来への布石を打つことには消極的な現場の実態がある。このような現場では、長期的な対応が必要とされる人材育成もなおざりにされる傾向が強い。現場を預かる管理職が、部下を成長させるために、これまでと異なる職務経験を必要としていることが分かっていたとしても、目先の戦力を手放したくないため、塩漬けにしてしまうようなケースも多い。そのような管理職は、その部下が伸び悩み、やがて戦力にならなくなっていく可能性には目を向けようともしない。このように、足元しか見ない成り行きに任せた人材育成が多くの現場にまん延すれば、やがて企業全体の成長力も失われてしまうだろう。

■偶発的な結果を「計画的な結果」に変える

私たちが人材アセスメントを通して出会った変化創出力の高いミドルも、その職務経験に計画性は認められず、ほとんどが偶発的に積み重ねてきたものだった。これでは、あまりにも組織としての育成効率が悪い。

さまざまな企業のジョブローテーションの実態を、人材育成のマクロモデルやミクロモデルを通して分析すると、多くの矛盾や問題を指摘できる。階層別研修も同様で、さまざまな経緯からつぎはぎされてパッチワークになっているケースが多く、改善の余地が大きい。OJTを見ても、各管理職なりの属人的なやり方に任せているケースが多く、パッチワークどころか混沌(こんとん)の様相を呈している。

まずは、経営者と人事部門と現場を預かる管理職が、前掲[図表2~3]のような人材育成のマクロモデルやミクロモデルを人材育成の判断基準として共有することをお勧めしたい。そして、こうした法則性を自社なりに咀嚼(そしゃく)した上で、人事部門がジョブローテーションの仕組みと研修体系を再構築し、経営者は、現場を預かる管理職とOJTのスタイルを共創することを提案したい。

そのようにして、偶発的な結果を計画的な結果にしていけば、変化創出力の高いミドルの育成効率を高めることができるだろう。

■本連載のねらい――「課長 夏川あい」の成長の軌跡から、職務経験のデザイン方法を明らかにする

本連載では、「課長 夏川あい」が、新卒で入社してから部長昇格に至るまでの成長の軌跡をなぞりながら、成長のメカニズムと職務経験のデザイン方法を解説していく。また、職務経験デザインの仕組み化事例や、それをサポートするOJTやOff-JTの在り方、ジョブローテーションと同様な効果が期待できる新たな育成施策の事例も紹介する。

主人公である「課長 夏川あい」の人物像は、弊社がこれまでにご支援させていただいた企業に実在する数名の方々の職務経験を参考にして創作したものだ。次回からは、彼女の成長ストーリーを紹介する形で連載を予定しており、読者の皆さまや、周りの方々の職務経験と照らし合わせながら、読み物としても楽しんでいただきたい。

<主人公のプロフィール>

氏  名: 夏川あい

生年月日: 1977年7月12日

学  歴: 早稲田大学 法学部卒

職  歴: 2000年4月 食品メーカーABC食品に入社

【連載全7回のテーマ(予定)】

[第1回]序章 人材育成への問題提起

[第2回]営業先で仕事の考え方が変わった日 STAGE-1 ビジネスOSの導入期

[第3回]実務を通じて汎用能力の土台をつくる STAGE-2 多面的な思考力の形成期

[第4回]再び営業現場で専門能力の柱をつくる STAGE-3 専門的な思考力の形成期

[第5回]異動先で専門能力を拡張する STAGE-4 多角的な専門性の形成期

[第6回]職場改革をリードする STAGE-5 夏川あいの後日談

[第7回]終章 新たな人材育成の仕組みづくり

有田 曉生 ありた あきお
PMIコンサルティング株式会社 ファウンダー
人事、組織、マーケティングなど、多岐にわたる分野で、多くの企業に対するコンサルテーションの実績を持つ。PMIコンサルティングを設立し、ソリューション提供側の論理によってのみ構成されていたコンサルティング・ソリューションを、すべて「人」の学習と成長の観点から見直す。企業の競争力の源泉である「人」を徹底的に洞察する独自のアプローチは、多くの企業から注目されている。
http://www.pmi-c.co.jp/

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