Point of view [2015.01.16]

第33回 小林浩志

「怒る」と「叱る」の違い――技術で叱るアンガーマネジメント


小林 浩志   こばやし こうじ
社会保険労務士法人 こばやし事務所 代表社員
青山学院大学大学院法学研究科修了。大学院でのハラスメント研究を基に、パワハラ防止策の有効なメソッドとして、「アンガーマネジメント」という怒りの感情のコントロール法を多くの企業、大学、病院等へ紹介している。
著書に、『パワハラ防止のためのアンガーマネジメント入門』東洋経済新報社。『人生なぜかうまくいく人のアンガーマネジメント』を東洋経済オンラインで連載中。

 

必要な指導をためらわない

 パワハラ(パワーハラスメント)の問題がクローズアップされるにつれ、部下からパワハラ被害を訴えられることを恐れて、必要な指導までをも控えてしまう上司が増えているようだ。
 筆者がパワハラの企業研修を担当する際にも、「何をしたらパワハラになるのか、具体的に教えてほしい」という質問をよくいただく。
 実際、厚生労働省もこのことを問題視していて、平成24年3月に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」において「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」をまとめた際、「上司は、自らがパワーハラスメントをしないことはもちろん、部下にもさせてはならない。ただし、必要な指導を適正に行うことまでためらってはならない」というメッセージを発している。

怒ると叱るの違い

 コミュニケーションの専門家の中に、「怒る」と「叱る」の違いを強調する人がいる。国語的な意味の違いではない。
 違いのポイントは、「自分の損得のために怒る」であり、「相手の成長のために叱る」である。
 怒るは、自分が困りたくないから、不利益を被りたくないからという理由からくる「自分本位型のコミュニケーション」であり、叱るは、改善提案や相手の成長を促すことが目的の「相手本位型のコミュニケーション」といえる。
 例えば、営業部門の上司が、成績の振るわない部下のせいで自分の査定に響くことを責めるのが「怒る」、成績改善のための具体的提案を教示するのが「叱る」、だ。
 怒るばかりでは部下に響かず追い詰めてしまうことから、部下の成長を願うのであれば「叱る」を心掛けたい。

技術で叱ろう

 感情に任せて怒鳴ることは、相手を傷つけ、自分自身も後悔する。部下を上司の「気分」や「情緒」で叱ってはならない。パワハラ上司は、その日の機嫌で部下に怒りをぶつけたり、許したりするので、部下からの信頼を得られず、チームの成果が上がりにくいのだ。

 例えば、始業時刻が午前9時のところ、9時5分に出勤してきた部下がいたとする。
 その朝の気分が良かった上司は、特に注意をせずに黙っていた。
 翌日、8時55分に出勤してきた部下がいた。
「おいっ、ギリギリじゃないか! お前には社会人の常識がないのか!」と怒鳴る――。
 こうした対応を繰り返していては、部下から「いい加減な上司」と評価されてしまいそうだ。

 パワハラ防止に役立つ、「アンガーマネジメント」という怒りの感情をコントロールするための技術論がある。これを活用しよう。
 つまり、「技術で叱る」のだ。

 気分や情緒で部下に怒りをぶつけないようにするため、普段から、部下を「叱ってもいいこと(≒怒りを表してもいいこと)」と、「叱ってはいけないこと(怒りを表さなくてもいいこと)」の基準値(内的基準)を決めておき、部下の言動が、基準値の境界線を越えたならば叱責するようにしたい。

[図表]あなたが叱るときの境界線(内的基準)は?

資料出所:一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会

 具体的には、上の表を活用するとイメージしやすい。
 A欄は「怒りを表す必要がないこと」、すなわち、「叱ってはいけないこと」。
 B欄は「イラッとはするが、言葉に出すまではしないこと」。癪(しゃく)に障るが…というレベル。
 C欄は「必要な叱責なので、注意しても後悔しない」。すなわち、「叱ってもいいこと」だ。
 先ほどの「9時始業」で考えると、あなたの内的基準ならば、「8時50分」はA、B、Cのどこに入るだろう?「8時58分は?」「9時ちょうどは?」「9時10分は?」…。

 A欄、B欄に入っている数値なのに、日によって怒りを表したり、表さなかったりしたら、それは気分や情緒で怒っていることになる。
 気分や情緒で表した怒りは、部下からの信頼を損ねるだけでなく、後悔や自己嫌悪にもつながるので、境界線はしっかり守ってほしい。

 アンガーマネジメントの技術を活用した体質改善が進めば、A欄とB欄が大きくなってくる。大きくなるに越したことはないが、際限なく大きくする必要はない。なぜなら、C欄が小さすぎると、部下への必要な指導がおろそかになるからだ。

モノマネから理想的上司に

 部下を叱る際に役立つアンガーマネジメントのテクニックに、「プレイロール」というものがある。
 冒頭に記したように、最近は、部下を叱ることに自信を持てない上司が増えた。パワハラになることを恐れる以外に、元々のおとなしい性格が原因の人もいるようだ。しかし、性格は後天的に獲得することも可能である。
 プレイロールは、理想とする上司や先輩、歴史上の偉人や映画の登場人物のキャラクターを演じきることで、理想の性格に近づいていこうとする体質改善テクニックだ。
 例えば、「坂本竜馬が叱るならば、どういうふうに振る舞うだろう」「島耕作ならば、どんな言葉をかけるだろう」「○○部長の叱るときの仕草は」「△△先輩の話しかたの癖は」……こんなふうに理想を現実化させていってほしい。

 ピタゴラスは、「怒りは無謀をもって始まり、後悔をもって終わる」と述べている。無謀な怒りで深く後悔しないよう、自分の怒りレベルを技術で分別できるようにしておきたいものだ。

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