新任担当者のための労働法セミナー [2015.10.22]

第42回(完) 労働基準法による禁止事項その他 (労働基準法5条、6条、9条、16条、18条、107~109条)


下山智恵子
インプルーブ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士

今回のクエスチョン

Q1 当社では、技能検定試験の費用を会社が負担するに当たり、一定以上の期間当社で勤務することを要件とし、働かなければその費用を請求することを検討しています。注意すべき点についてアドバイスください。


A1 損害賠償額の予定をすることは禁止されています(労働基準法16条)

 労働基準法では、使用者が労働者に対して損害賠償額の予定をすることは禁止されています。これは、「実際の損害額にかかわらず、損害賠償請求する額をあらかじめ定めておくこと」であり、実際に会社が被った損害について、賠償請求することを禁止したものではありません。
 貴社で検討されている、一定期間働かなければ費用を請求することは、この法律に抵触する可能性があります。
 しかし、技能検定費用を会社が支払い、働かない場合に損害賠償請求するのではなく、会社が立て替え払いし、一定期間働いた場合に弁済を免除するという考え方であれば、この法律に違反しない可能性もあります。
 この場合、その費用が合理的な実費であり、費用を返済すればいつでも退職することができるのであれば、法違反にはならないと考えられます。

【解説】

■強制的に働かせることは禁止されている(労働基準法5条)
 労働基準法では、労働者の意思に反して働くことを強制することを禁止しており、違反には「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」という最も重い罰則が定められています。
 この考えは、労働基準法が制定された昭和22年当時の労働者保護の趣旨を色濃く残しているもので、昨今の使用者と労働者との関係とはかなり異なっているという考え方もあります。
 労働基準法では、この決まりのほかにも同様の趣旨で定められたものがありますので、ここでご説明します。

■社内預金を強制してはならない(労働基準法18条)
 会社は、労働契約に付随して貯蓄の契約をさせたり、貯蓄金を管理する契約をすることはできません。
 労働基準法5条(強制労働の禁止)と同じ趣旨で、貯蓄を強要することによって、賃金を全額払わず、退職できなくさせることを防ぐために定められています。
 そのため、労働者の貯蓄金を管理する場合には、労使協定を労働基準監督署へ届け出ることや、「貯蓄金の管理に関する規程」を周知することなど細かな要件が定められています。
 また、「賃金の支払いの確保等に関する法律」(3条)においても、貯蓄金の保全措置を講ずるよう義務づけられています。

■他人の就業に介入して利益を得てはいけない(労働基準法6条)
 他人の就業に介入して利益を得ること(中間搾取)は禁止されています。これは、労働者を働かせて賃金を中間搾取し、労働者の意思や人格が無視されることを防ぐ趣旨で定められています。
 有料職業紹介や労働者派遣について細かく法律で定められ、業として行うには厚生労働大臣の許可が必要とされているのも、この考えによるものです。許可を得た場合は、例外として法違反ではありません。
 なお、ここでいう「就業」への介入とは、労働者が労働関係に入るとき、または労働関係を存続するときに介入することを指しています。

Q2 インターンシップの実習生に賃金を払う必要はありますか?


A2 実習が見学や体験的なものであり、指揮命令を受けない限り、労働者ではないため、賃金を支払う必要はありません

 労働者を使用すれば、賃金を支払う義務が生じます。
 最近は学生などを、就業体験を目的とした職場実習で受け入れるケースが増えています。この場合、賃金を支払う必要があるのかどうか、という問題が生じることがあります。
 これについては次のとおり、通達が出ています。
「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働者に該当しない」「直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、労働者に該当する」(平9.9.18 基発636)

■労働者とは指揮監督下で労働し、賃金を支払われる者(労働基準法9条)
 労働者とは、使用者の指揮監督下で労働し、賃金を支払われる者をいいます。
 労働者なのか、業務請負なのかは、問題になることが多く、判断基準が出されています(昭和60年12月19日付け 厚生労働省『労働基準法研究会報告(「労働者」の判断基準について)』⇒公表資料はこちら)。
 判断のポイントは、[図表1]のとおりです。当てはまる場合は総合的にみて労働者と判断されます。

[図表1]労働者性の判断のポイント

1.指揮監督下の労働である

□仕事の依頼、業務従事の指示などに対して応じるかどうかを判断する自由はない

□業務の内容や遂行方法について具体的な指揮・命令を受けている

□通常予定されている業務以外の業務に従事することがある

□勤務場所、勤務時間が指定、管理されている。ただし、業務の性質や安全確保のため指定する必要がある場合を除く

□本人に代わって他の者が労務を提供することが認められていない

2.報酬は「賃金」として支払っている

□報酬が時間給、月給など時間によって計算されている

□欠勤の場合には控除されたり、残業の場合には残業手当が支給されたりしている

3.事業者であるとはいえない(労働者性を補強する要素)

□本人が所有する機械や器具などが著しく高価ではない

□報酬の額が正規の労働者と比較して著しく高額ではない

※この他、裁判例では次の要素を考慮しているものがある

□業務遂行上の損害に対する責任を負わない

□独自の商号使用が認められていない

4.会社専属である(労働者性を補強する要素)

□他社の業務に従事することに制約がある、または時間的余裕がなく事実上困難である

□報酬に固定給部分があり、生活保障的要素が強い

※この他、裁判例では次の要素を考慮しているものがある

□採用、委託等の選考過程が正規従業員とほとんど同様である

□給与所得として源泉徴収している

□労働保険の対象である

□服務規律を適用している

□退職金制度、福利厚生を適用している

 

Q3 労働者名簿や賃金台帳は、いつまで保存すべきかを教えてください。


A3 3年間保存することが義務づけられています。(労働基準法107~109条)

 労働者に関するさまざまな書類のうち、重要な書類を3年間保存することが労働基準法で義務づけられています(労働基準法109条、施行規則56条ほか)。このほか、主な書類の保存期間は[図表2]のとおりです。

[図表2]主な書類の保存期間

書類 起算日 保存期間
労働者名簿 死亡、退職、解雇の日 3年間
賃金台帳 最後に記入した日
労働時間の記録に関する書類
(出勤簿、タイムカード、残業申請書など)
完結の日
賃金その他労働関係に関する重要な書類 完結の日
雇い入れ、退職に関する書類
(雇用契約書、退職届など)
退職、死亡の日
災害補償に関する書類 災害補償終了日
一般健康診断個人票 作成日 5年間
安全衛生委員会等の議事録 作成日 3年間
雇用保険の被保険者に関する書類 完結の日(退職等の日) 4年間
その他の雇用保険に関する書類 完結の日(退職等の日) 2年間
労災保険に関する書類類 完結の日 3年間
労働保険料の徴収・納付に関する書類 完結の日(納付日等) 3年間
健康保険・厚生年金に関する書類 完結の日(退職等の日) 2年間
派遣元管理台帳 派遣終了の日 3年間
派遣先管理台帳 派遣終了の日 3年間

■労働者名簿の整備が義務づけられている(労働基準法107条、施行規則53条)
 使用者は、事業場ごとに労働者名簿を調製することが義務づけられています。記入すべき事項は[図表3]のとおり定められており、変更があれば遅滞なく訂正しなければなりません。

[図表3]労働者名簿および賃金台帳の記載事項

労働者名簿 賃金台帳

①氏名

②性別

③生年月日

④住所

⑤従事する業務の種類

⑥雇入れ年月日

⑦退職の年月日とその事由
 (退職事由が解雇の場合はその理由)

⑧死亡年月日とその原因

⑨履歴 など

※常時使用する労働者が30人未満の会社では、⑤は省略可

①氏名

②性別

③賃金計算の基礎となる事項

④賃金額

⑤賃金計算期間

⑥労働日数

⑦労働時間数

⑧時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数

⑨基本給、手当、その他賃金の種類ごとにその額

⑩賃金控除額

※管理監督者については、⑦、⑧(深夜業は除く)の項目は記入する 必要がない

 

■労働者名簿の整備が義務づけられている(労働基準法107条、施行規則53条)
 同様に、賃金台帳に記入すべき項目も定められています[図表3]
 最近、労働基準監督署の調査では、賃金台帳にこれらの項目が正しく記載されているかどうかをチェックされることが多くなりました。過労死や過労自殺、残業代不払いなど、長時間労働によるさまざまな問題が増えている中で、「時間外労働や休日労働、深夜労働の時間数が何時間であったと会社は認識しているのか」はこれらの項目を見ればすぐに分かります。
 また、時間外労働手当を毎月定額で支払う会社が増えています。その目的は会社によってさまざまですが、実働時間を基に計算した割増賃金が、定額払いの額を超えた場合は、不足額を支払わなければなりません。
 時間外労働手当を定額で払ったとしても、各日の労働時間を把握する義務は免れず、時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数も当然把握し、賃金台帳に記載する必要があります。

【編集部より】 本連載は、今回で最終回となります。長らくご愛読いただき、誠に有り難うございました。

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2014年9月にご紹介したものです。


こんなときどうする? Q&Aでわかる! 労働基準法
  特定社会保険労務士 下山智恵子 著/労務行政
  A5判・256頁・1,782円

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●労働時間、解雇、賃金など、問題となりがちな項目について、労働基準法の定め・取り扱い等を図解入りで解説

 第1章  労働基準法とは?
 第2章 「労働時間」の基本を押さえる
 第3章 「賃金」の基本を押さえる
 第4章 「休暇・休業」の基本を押さえる
 第5章 「妊娠~出産~育児関連、年少者」の基本を押さえる
 第6章 「退職・解雇」の基本を押さえる
 第7章 「労働契約・就業規則」の基本を押さえる

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下山智恵子 しもやまちえこ
インプルーブ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士

 大手メーカー人事部を経て、1998年に下山社会保険労務士事務所を設立。以来、労働問題の解決や就業規則作成、賃金評価制度策定等に取り組んできた。 2004年には、人事労務のコンサルティングと給与計算アウトソーシング会社である(株)インプルーブ労務コンサルティングを設立。法律や判例を踏まえたうえで、 企業の業種・業態に合わせた実用的なコンサルティングを行っている。著書に、『労働基準法がよくわかる本』『もらえる年金が本当にわかる本』『あなたの年金これで安心!―受け取る金額がすぐ分かる』(以上、成美堂出版)など。

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