CINEMA REVIEW 【斎藤智文】 [2012.03.27]

CINEMA REVIEW(39・完) 腐敗を糺す勇気、妥協しない正義感


「ブルベイカー」
Brubaker

1980年公開 アメリカ映画 132分
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
出演:ロバート・レッドフォード、ジェーン・アレクサンダー

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正義を貫く物語
考えさせられる映画でした。
実話にもとづく、正義感溢れた刑務所長の孤軍奮闘の物語。
妥協を知らない正義漢。レッドフォードが演じると現実味がなくなるけれど..
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CINEMA REVIEW-ビジネスパーソンにおススメの映画案内(第39回・完)
株式会社組織と働きがい研究所 代表
多摩大学大学院 客員教授
斎藤智文

幼少の頃持っていた正義感、大人になってからの妥協

幼少の頃は正義が第一のものと信じ、誰もがヒーローに憧れ、ヒロイズムに感動します。しかし、悲しいことに、人は年齢と共に世の中の「さまざまな事情」に丸め込まれ、正しいことに真正面から向かいあうことが少なくなっていくようです。そして、ヒーローに対しても、斜に構えて見てしまいます。もちろん、私も身に覚えがあります。

不正にまみれ、腐りきった刑務所の現実を描いた映画『ブルベイカー』は、私がまだ世の中に丸め込まれてはいなかった20代初めの頃に観て感激した作品です。50代の今、改めて観てどういう感覚になるかが気になって、再見してみました。

20代の頃ほど強烈な感動は覚えませんでしたが、今観ても不正や腐敗を糺(ただ)すことには共感します。この映画の中のヘンリー・ブルベイカー(ロバート・レッドフォード)のとった行動は、誰が何と言っても正しいです。しかし、ここまで不正が日常化した組織の中では、まったくの孤軍奮闘で勝ち目がありません。もう少し違う糺し方のほうが、より効果があったのではないかとも思いました。

正義感を信じている中学生や高校生にこの映画を見せると、ほとんどの生徒が、ブルベイカーのとった行動を手放しで「すばらしい」と褒めたたえるでしょう。私は、社会人として働いている人たちにぜひ感想を聞いてみたいと思います。「すばらしい」と感じても、わが身を振り返ると、とてもまねはできないと思うでしょうし、そもそも「一人で戦ってバカみたい」という冷めた感想もあるかもしれません。

組織ぐるみで不正を行う刑務所

主人公のブルベイカーは40歳。州政府知事の補佐官であるリリアン(ジェーン・アレクサンダー)の依頼を受け、アーカンソー州ウェークフィールド刑務所の実態を探るために、本当はそこの所長で赴任する立場でありながら、囚人の一人として潜入します。かなり危険な行動です。

そこは囚人が選挙して委員を決め、自治運営されている進歩的な仕組みを持つ刑務所のはずでした。しかし、彼はそこで、人間として扱われず、ひどい境遇に置かれている囚人たちの姿を目の当たりにします。「進歩的な刑務所」とは名ばかりで、実情は過酷な労働やリンチなどが日常化していて、汚職や独裁などが横行する凄まじい場所でした。

入所の時に金を払えば丸刈りにならずに済むとか、金次第でサンドイッチが食べられるくらいであればまだ害はありませんが、収監者用の食料などの物資を横流ししている連中や、囚人から金をとって治療している医者は言語道断です。「委員」と称する囚人たちは、看守とつるんで不正の限りを働いています。刑務所に出入りするさまざまな業者も甘い汁を吸っています。一部の囚人や看守を始めとする職員がみんなグルになって、悪行が組織化されています。ブルベイカーはこの現実にショックを受けますが、自分が新任の刑務所長であることを宣言し、囚人の劣悪な待遇改善と不正の排除に取り組み始めます。

しかし、恐ろしいことに、問題は刑務所の現場だけではありませんでした。彼は、政治家もグルになって悪行を繰り返している事実を発見します。上院議員や州知事を含めた上層部まで蔓延(まんえん)した腐敗の是正に足を踏み入れます。当然ながら、ワイロの額や収入が減ることになる議員や自治委員たちは、言いなりにならないブルベイカーに反感を持ちます。

あえて言うなら、そこまでは、世の中の多くのところで行われている不正・腐敗です。ところが、さらにとんでもない驚愕(きょうがく)の事実を知ることになります。刑務所内でかつて大量の殺人が行われていて、200人もの遺体が埋められているというのです。囚人から不正が告発されそうになったり、何かの都合が悪くなったりした時は、こうした囚人を邪魔者として殺してしまっていました。刑務所に関係する悪業の数々を秘密裏に消し去っていたわけです。

ぬけぬけと正論を否定

この映画は、アーカンソー刑務所での自らの体験を暴露した人たちが共同執筆したノンフィクション小説が原作です。表には出てきにくい醜い裏面を、白日の下にさらしている勇気ある執筆ですが、映画の影響力はさらに巨大なものです。そういう意味で、この映画の製作自体が極めて勇気のある行動であり、大変な意義深い映画だと思います。

組織の中の不正を糺すのはとても難しいことです。どんなに理にかなった正しい行動をとっても、一人で組織に立ち向かうのは大変です。権力を持った人たちからの報復を恐れる多くの関係者がいます。その人たちが正しいことをしている人を応援してくれることはありません。自分の身にマイナスになることが降りかかる懸念を感じた人は、どんなに親しい人でも正しい行動をとっている人間の味方にはなってはくれず、不正に加担しないまでも「見て見ぬふり」をするのが精一杯です。

また、「長いものには巻かれておいたほうが得」という考え方も根強いものです。もちろん不正に関与していた当事者たちは、告発者を徹底的に、ありとあらゆる方法でつぶしにかかります。例えば、オリンパスの事件でも同じことが起こりました。オリンパスの場合は、雇われではあったものの、社長という地位にいた人がマスコミを味方につけて訴えたために組織の不正が陽(ひ)の目を見ましたが、通常、組織対個人では、個人に勝ち目はありません。オリンパスでは、不正を糺すまでいかなくとも、疑念を口にした役員はすぐに解任されていたという報道がありました。ブルベイカーの場合も、本来不正を糺す立場でもある「お偉いさん」が、自ら不正に加担し利益を得ていました。これでは、どんなに理があっても、多勢に無勢で、勝ち目はありません。

上院議員は、ブルベイカーに対して、ぬけぬけと次のようなセリフを発します。「一つだけ忠告しよう。この州で英雄を気取るな。州民のことでわれわれに説教するのもよせ」。本当はブルベイカーの味方になりたいリリアンも、保身のために体制側に付いたままです。

ブルベイカーは殺人の事実を調べるために大量殺人の証拠を掘り起こそうとしますが、「墓荒らしは重罪」と脅され、それでも実行しようとすると「中止しろなどとは頼まない。中止は命令だ」と強権を発動されます。

権力者の悪行、関係者のモラルの崩壊

役人はまさに権力の下僕ですが、まるで自分が権力を持っているかのように錯覚している人がいます。しかし、本当は「権力の走狗(そうく)」に成り下がっていることに気づきません。ビジネスパーソンも同じです。“ビジネスを遂行する人(パーソン)”ではなく、やはり「組織の走狗」として動いているだけで、生産や品質、顧客満足に関わっていない人がいます。この映画の場合は、役人レベルを超え、権力そのものである上院議員や州知事自身が悪人なので、性質が悪過ぎです。

日本で高名な澤庵宗彭(いわゆる沢庵〔たくあん〕和尚、1573~1646)は、(彼は仲間と共に行動しているので少し事情は違いますが)時の権力者が理不尽な方針を発した際に、真っ向から歯向かった人と言われています。ブルベイカーの正義感は沢庵和尚を連想させてくれます。

権力者の悪行や関係者のモラルの崩壊は今に始まったことではなく、いつの世にも存在する極めて残念な現実のように思います。日本でも刑務所や介護施設、病院など弱い立場の人間がいじめられている事例がときどき報道されます。それらは氷山の一角かもしれません。大切なことは、悪事の一端が発覚した時には、速やかに全貌を明らかにし、是正することです。

意志を曲げない男を描く、スチュアート・ローゼンバーグ監督

好きな映画監督はたくさんいますが、本作のスチュアート・ローゼンバーグは、特別大好きな監督です。若い頃に「もっとも好きな映画」を聞かれた時に、真っ先に『暴力脱獄』(1968年、ポール・ニューマン主演)を挙げていた時期があります。この作品の監督がローゼンバーグで、10代の頃から熱烈なファンでした。今回取り上げた『ブルベイカー』も権力や体制を恐れずに歯向かうところが『暴力脱獄』に通じています。

どちらの作品も“たとえ不正にまみれていたとしても、皆とうまくやればよい”という、打算をやむなしとする現代の不誠実を批判した作品で、当時のアメリカのみならず現在の日本社会にも同じことが言える内容だと思います。

ブルベイカーは、リリアンの「首になったら改革はできない。利用されているふりをして、うまく立ち回ったほうがいい」という忠告に対して「本当の障害は不正に加担している上院議員をはじめとする上層部の人間ではない。口先だけで何もしないニセ改革者たちだ」と答えます。

今は影響力のあるメディアも増えていますし、現場で密かに行われている不正に対して、一人ひとりが情報発信する手段がたくさんある時代です。こうした中、ブルベイカーのように正しいことをしている人が、孤軍奮闘状態にならないような社会にしていきたいものです。

巨悪に勝てなかったブルベイカーですが、映画の最後には気持ちが洗われるようなシーンが用意されています。最後にテロップ(字幕)で流れる言葉も溜飲(りゅういん)を下げることができます。ぜひ一度ご覧ください。そして、いろいろな方とディスカッションしてみてください。

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