育てる現場
東京大学 中原 淳×スコラ・コンサルト 野口正明 対談
[2011.03.25]

【短期集中連載】時間と予算をムダにする“研修”をいい加減やめよう(1/3)~東京大学 中原 淳×スコラ・コンサルト 野口正明 対談~


「講師ばかりが熱心で、受講者は一様にシラけている」

こんな研修によく遭遇します。ところが研修を企画している事務局は、「よい研修をしよう」と一生懸命考えていますし、受講者も「主体的に参加しなくてはならない」と思ってはいるのです。ところが研修後に受講者をつかまえて、本音の感想を聞いてみると、「本当のところ、研修が役に立ったことがない」「つまらなかった」という人が大多数。いったいどうしてこんな状況が生まれているのでしょうか。
人材育成分野の第一人者である中原 淳先生(東京大学大学総合教育研究センター准教授)と、多くの企業の組織改革を支援してきた野口正明さん((株)スコラ・コンサルト プロセスデザイナー)に、企業における「研修」について本音で語ってもらいました。

取材・進行:和田東子

<質問>
研修後の満足度調査で、本当はつまらなかったのに「大変役に立った」「おもしろかった」といった高評価をつけたことがありますか?

(アンケート投票はすでに終了しました)

◆研修は儀式になっている
~滞りなく終わらせたい事務局の本音

中原淳先生(東京大学大学総合教育研究センター准教授)

中原:
私が現在の企業研修の問題点としてまず指摘したいのは、研修カリキュラムが「儀礼的行為の集合」になっていないか、ということです。

研修のプロセスそのものが一つの「お約束」にはまっていて、一種の「儀式」となっている。ここでいう「儀式」とは、「一見意味がありそうに見えて、意味がないもの」という意味です。つまり、一言でいえば、研修が業務に役立つものとして存在しようとするよりも、それ自体が「自己目的化」していないかを検証していく必要があります。

昨今の典型的な研修は、いわゆる座学だけではありません。レクチャーがあり、グループワークがあり、一定のプロセスを経て、最終的にはアクションプランを立てて終わります。しかし、それが儀礼的である証拠は、実現可能性がないアクションプランが提案されているケースが多いことです。そして、それに対してコメントやフィードバックがなされることは、ほぼありません。
多くの研修では、アクションプランを発表する時間は確保されていても、それを批判的に、かつ、相互に吟味したり検討したりする時間は、まずとられていないですよね。

そのこと自体が「アクションプランは発表してもらえればOKで、別に、実行されなくてもいいよ」ということを暗黙のメッセージとして伝えているのです。こういうものをヒドゥンカリキュラム(Hidden Curriculum : 研修講師側が意図していなかったとしても、潜在的に学ばれてしまう教育内容)といいます。

意地の悪い見方をしますと、発表したアクションプランを実行してしまう人が出てきたほうが、かえって“問題”があるのかもしれません。
仮に、研修で学んだことを実践した人がいたとして、うまくいかないところが多々でてくるとします。そのケアを、いったい、だれが行うのかという問題が生じるでしょう。受講者はもちろん、そのアクションプランにOKを出した講師も、そうした研修を企画した事務局も、困ったことになるでしょう。

左から東京大学 中原 淳先生、スコラ・コンサルト 野口正明さん 

そうなっては困るので、事務局と受講者はアクションプランの実現可能性については、問うことなく、この「儀礼的時間」を、滞りなく終わらせようとします。

その意味では、マクロにみれば、事務局と受講者は「意図せざる共犯関係」にあることも少なくはないのです。もちろん、すべての研修がそうなっていると言いたいわけではありません。すばらしい研修ももちろんあることは、言い添えておきます。

——つまり、研修が役に立たないと思われたり、つまらない、意味がない、と感じたりするのは、研修が「儀礼的行為」であることを、事務局も受講生も「わかっている」からですね。

でも、そのつまらさを打破しようとするとさまざまな問題が出てくるので、研修はつまらないかもしれないけど、そこには突っ込むのはやめようと。
受講者も事務局も「暗黙の了解」をもっているということでしょうか。

中原:
すべてではないですが、そういうケースは少なくないと思います。

野口:
私は前職では、まさに企業の人事部で研修を担当する事務局もやっていました。その立場からいうと非常に分かる話です。
このご時世ですから、研修も「成果」が求められています。いわばアクションプランは「研修の成果物」であり、「経営層への説明用」のものとして位置づけられます
もちろん、研修をやるからには人事としても参加者にとってより有益なものをやろうと努力はしていますが、研修後にそれぞれがどんな職場環境で、どのように実行できるのか、あるいは実行に当たってどのような障害がありそうかといったことまでは責任を持てません。
その意味では、いったん作ってしまえば、そのプランの是非について本当の意味で検討することまではしないで、その研修で学んだことをベースにちゃんとアクションプランとして形にまとめるところまでやれればOKというのが事務局の本音です。

中原:
でもそもそも、「アクションプラン」が「研修の成果」なのでしょうか? 本来は「アクションプランに基づいて実行されるアクション」こそが「研修の成果」だったのではないでしょうか。すべてのアクションが成功するとは思っていませんが、どちらが「研修の成果」なのかを考えてみるべきときに来ていると思います。


このように、一歩踏み出すのであれば、研修の評価の仕組みなども含めて、いろいろなものを見直す必要があります。
くどいようですが、「現場の意思決定」は僕にはできません。現場のことは、現場の方々が最もよく知っている。しかも、現場の意思決定に「答え」を出せるのは「現場の方」だけです。もちろん、そう言うと、途中で怒り出す人もいますし、結構「答えを教えろ」とストレスをぶつけてくる人もいます。

◆受講者の満足度調査は、本当に意味があるのか?

中原
「儀礼的行為」から一歩抜け出そうとすると、事務局には「覚悟」が必要になります
この数年、私は某企業の皆さんと、「職場での実践を含みこむ研修」の開発研究を行っています。なにしろ初めての試みですから、うまくいかないことも多く、反省しきり、汗顔の至りです。私自身のやり方や実践にも、まだまだ反省や成長の必要があります。

ですが、一方で私自身も「覚悟」を決めることが重要なのだと思います。この問題に、身をもって自分が「実践者」となることで、何とか「研修の現状を打破するモデル」を作れないかな、と考えています。事務局の方と、ここ数年は、腹をきめて実施してきました。職場実践中は、現場へのヒアリングに事務局が出かけたり、サポートを行います。正直、これはかなり“重い”研修です。

実際、しんどい研修ですので、参加者の満足度は決して高くないことが少なくありません。研修満足度は5点満点で平均「3」を切ることもあります。でも、それは「気にすること」は必要かもしれませんが、「過剰に気にすること」は必ずしも重要ではないと思っています。

そもそも研修満足度が「研修成果の指標」として妥当なのかどうか、この点の十分な検証はなされているのでしょうか。研修満足度は、研修カリキュラムの形成的評価(カリキュラムをよくするために行われる評価)の指標として用いられることに一定の意味はあるとは思いますが、「成果指標」として絶対化して用いられることには抵抗感があります。ですので、研修満足度への配慮は必要ですが、必要以上には気にしません。

野口:
そのとおりです。実は受講者の満足度を上げることはそれほど難しくないんです。研修の中で気持ちよく何かを作り出してもらえれば、ある程度評価は上がるものなんです。
しかし、そこではつき詰めた議論などは行われていません。ですから一歩踏み出そうとすると、事務局の覚悟が相当問われます。だからというわけではありませんが、私が行っている研修、実際には「研修」とは言わずに「ワークショップ」という呼び方をしていますが、そもそも受講者満足度調査を行わないんです。

野口正明さん(スコラ・コンサルト プロセスデザイナー)

最近私がやっている研修では、「最終的にどのようなゴールになるかは決まっていません。どのように進むかは皆さん次第です」といったことを、最初に経営トップにも事務局にも申し上げるんです。既存の研修がもっている暗黙の枠組みを外すことが、本当に役に立つ研修を実現するためには必要だということです。
そして、研修の中では個々人がそのプロセスの中で何に気づき、何を得たのか、あるいは何に違和感を持ったのかということを大切にしています。必ずしも形としてきれいなゴールが描けなくても自分なりに次につながるものが得られることのほうが大事だと思うからです。
でも最初は、そう言ってもやはり受講者から「ゴールを示してほしい」「どんなアウトプットを想定しているのか教えてほしい」と言われます。「先行きが見えにくい、分からない」という状態が気持ち悪いのですね。

中原:
分かります。答えがないかもしれないのにやるとすれば、参加者はモヤモヤしてすっきりしません。
だから私は、すっきりさせるためのヒントやツールは提供しますし、手助けもしますが、最終的にすっきりさせるのはあなた自身ですよ、といつも申し上げています。

私は「現場の人間」ではありません。現場にいないからこそ、現場の方々に対してさまざまなコメントはできます。それは、僕の「強さ」でもあり、「バルネラビリティ(弱さ)」でもあります。

つまり「覚悟」は、研修の事務局だけではなく、経営者、そして現場である受講者の三者に必要だといえます。その覚悟を、どの会社にも持っていただきたいと、私は言うつもりはありません。それをやるかどうかは、その会社ごとの「経営判断」だと思います。それを強要するつもりは、私はまったくありません。

ただ、「研修を本当に業務に活かそう」とするならば、そういう「覚悟」が必要だと思うんです。
野口さんのいうような研修をやろうとしたら、受講者の満足度が高くなるかどうかは受講者次第です。したがって満足度が低い場合もあるということを、上司や経営者が理解しなければなりません。また、この機会に組織変革をするんだという決意をもって、そのための研修をするのだとの合意が不可欠です。

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