発達障害と就労支援の現実(滝田誠一郎) [2011.12.06]

第1回 発達障害とは何か? その分類と症例-発達障害と就労支援の現実


【新連載】
発達障害と就労支援の現実
第1回 発達障害とは何か? その分類と症例

滝田誠一郎 たきたせいいちろう
ノンフィクション作家/ジャーナリスト

あなたの周りに、知的能力には問題がないものの、仕事で失敗ばかりしたり、場の空気を読めずに人間関係がうまく築けないといった人はいないだろうか。実は、その背景に「発達障害」が関わっていることがある。軽度の場合は障害特性がわかりにくく、周囲の理解不足もあって、離職を繰り返し、社会生活に支障を来すケースも少なくない。現在、発達障害者支援法の成立(平成17年施行)等を背景に、発達障害者の自立や社会参加の促進を目的とした就労支援の動きも高まってきている。
今回は、発達障害者の障害特性の理解や支援体制の整備の現状をはじめ、就労支援、雇用管理上の配慮事項等について「発達障害」の現状をレポートする。(編集部)

■あのスティーブ・ジョブズが発達障害?

100万部を超すベストセラーになっている『スティーブ・ジョブズⅠ・Ⅱ』(ウォルター・アイザックソン著・井口耕二訳 講談社刊) が、発達障害の専門家らの間でひそかな話題になっている。アップルの創業者であり元CEOの故スティーブ・ジョブズ(1955~2011年)の一生を詳細かつ赤裸々に描き出した同書を読むと、さまざまなエピソードの中に発達障害傾向が色濃くにじんでいるというのである。

iMacやiPod、iPhone、iPadなどの大ヒット商品を次々と生み出し、同社を時価総額で世界一の企業に育て上げたカリスマ経営者に発達障害傾向が色濃いという指摘は、にわかには信じられないかもしれないが、多少なりとも発達障害について知識がある人にとっては十分に合点のいく話である。

スティーブ・ジョブズと並び立つIT業界の巨人、ビル・ゲイツ(マイクロソフト会長)にも同様に発達障害の傾向が見られると指摘する専門家もいる。ついでに言うならば、アメリカではアスペルガー症候群を“シリコンバレー・シンドローム”と呼ぶことがある。ハイテク産業の聖地シリコンバレーで働く技術者の4分の1がアスペルガー症候群だと言われているためだ。

■あの偉人たちも発達障害の傾向があった

そのハイテク産業をリードしてきたスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツに発達障害の傾向があったとしても何ら不思議ではない。歴史に目を転じればミケランジェロ、ベートーベン、モーツアルト、ニュートン、ピカソ、チャーチル等々も発達障害の傾向が強いとされている。こうして名前を書き連ねると発達障害とは天才・偉人に共通する傾向なのかとさえ思えてくるというものだ(あながち間違いともいえない)。

発達障害は“生まれながらにして脳の発達に凸凹がある障害”と説明される。正確にいうならば脳の発達の凸凹は誰にでもあるので、その凸凹がやや顕著な場合に「発達障害の傾向がある」とみなされ、凸凹が極端すぎる場合に医学的に発達障害と診断されると言えば分かりやすいだろうか。

この凸凹を検査し、指数化したものが知能指数(IQ)である。IQ70以下の場合は知的障害を伴う発達障害、逆にIQ70以上の場合は知的障害を伴わない発達障害、あるいは高機能発達障害と言ったりする。一口に発達障害といっても知的レベルはさまざまであり、どこが凸でどこが凹かによって表れる特性も大きく異なる。この多様性が発達障害の大きな特徴である。中には人並み外れた凸(才能)を持った天才もいるわけである。

■発達障害の定義

発達障害を医学的に理解するのは極めて難しい。精神科医をはじめとする専門家が発達障害についてさまざまな本を書いているが、それらを読んでもなかなか理解できるものではない。当の精神科医でさえ、発達障害をきちんと診断できる人はごく少数しかいないといわれるほどである。平成16年に制定された「発達障害者支援法」(平成17年4月1日施行)では、発達障害を以下のように定義づけている。

「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。(発達障害者支援法 第2条第1項)

資料出所:厚生労働省のホームページより http://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html

■発達障害の特徴

ここに記されているそれぞれの障害の特徴を、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター『発達障害者を理解するために~支援者のためのQ&A~』から要約してみると、次のようになる。

■自閉症

一般に、①社会性の問題、②コミュニケーションの問題、③イマジネーション(想像力の問題)、これら三つの領域に発達の偏りがある場合、自閉症と診断される。

①社会性の問題
自分と他者との適切な距離感を保つのが苦手。1人遊びを好む場合が多いが、反面、過度に対人的な距離を詰めすぎてしまう場合もある。自分の興味関心のあるものを第三者と共有し、そこに喜びを見いだすといった行動も遅れがち。社会生活における“暗黙のルール”をくみ取ることが苦手(空気が読めない)。

②コミュニケーションの問題
言葉の遅れがよく見られる。相手の言ったことをそのまま繰り返す(オウム返し)、駅のアナウンスやCMのせりふを1人で繰り返す(独語)、すでに知っていることを何度も繰り返すなど、言葉の発達の遅れや偏りが見られる。理解に関しても同様に、複雑になると理解しにくかったり、字義どおりに解釈したりするなどの遅れ、偏りが見られる。

③イマジネーションの問題
臨機応変に対応する力が弱く、常に同じ行動を好む傾向にある。別の言い方をすればこだわりが強い。いつもと異なると不安になってしまう。興味関心が偏っていることも特徴。

■アスペルガー症候群(AS)

自閉症とは対照的に言葉の発達に著しい遅れはみられない。このため一見しただけでは障害があるように見えないこともあるが、見ず知らずであるにもかかわらず、あたかも親しい人のように話し掛けてしまう、会話はスムーズだが辞書のような堅い言い回しや慣用句などのフレーズを使う、表面的な言葉の意味は分かるが裏の意味を理解できない等の特徴がある。程度や現れ方の差はあるが、アスペルガー症候群は自閉症と同じ三つの特徴(①社会性の問題、②コミュニケーションの問題、③イマジネーションの問題)を有する連続体として捉え、併せて自閉症スペクトラム障害ということも多い。

■学習障害(LD)

医学用語としての学習障害は読字障害、算数障害、書字表出障害の3領域の問題と区別される。つまり、他の全般的な能力に対し、「読む」「書く」「計算する」ことが個別ないし複合的に苦手であるという特徴がある。

■注意欠陥多動性障害(ADHD)

不注意、多動性、衝動性を特徴とする。これらが年齢または全体的な能力と比べて不相応に著しく認められる場合に注意欠陥多動性障害と診断される。刺激に対して瞬時に全方位的に忙しく反応してしまうため、このような特徴が表れると考えられている。不注意が強く出る場合、多動性・衝動性が強く出る場合、それぞれが共に目立つ場合とがある。

資料出所:社団法人雇用問題研究会「発達障害のある人の雇用管理マニュアル」

profile 滝田誠一郎 ノンフィクション作家/ジャーナリスト
1955年東京生まれ。青山学院大学卒。著書に『ビッグコミック創刊物語』『長靴を履いた開高健』『孫正義インターネット財閥経営』『電網創世記/インターネットにかけた男達の軌跡』他がある。またジャーナリストとして雇用問題、人事問題をテーマにした取材・執筆活動もしており、『65歳定年時代に伸びる会社』『人事制度イノベーション 脱・成果主義への修正回答』などの著書がある。
twitter : http://twitter.com/takitaro
Facebook : http://www.facebook.com/TakitaSeiichiro

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